休職したまま、復職せずに退職する。これは法律上まったく問題のない選択です。休職期間が残っていても、労働者には退職の自由があります。
ただ、制度として「できる」ことと、心の中で「していい」と思えることは、別の話だと思います。
私自身、適応障害で半年ほど休職し、結局復職せずに退職を選びました。傷病手当金は休職中から退職後まで合わせて計8か月受け取りました。その間、「このまま辞めてもいいのか」「逃げているだけなのではないか」と、何度も考えました。
この記事は、制度の正しい説明だけではなく、休職からそのまま退職を選んだ一人の人間が、会社にどう伝え、何を考えて決めたのかを書いたものです。同じように迷っている方の、判断材料の一つになればと思っています。
※この記事は私の体験に基づく一人称の記録です。休職・退職に関する制度や法律の正確な内容は、加入している健康保険組合・ハローワーク・お住まいの自治体・専門家など公式の窓口でご確認ください。医療的・法律的な判断を勧めるものではありません。
休職したまま退職するのは「あり」なのか
まず、事実から整理します。
休職は本来、復職を前提にした制度です。ですが、復職せずにそのまま退職することもできます。休職期間がまだ残っていても、退職の意思を伝えること自体に、会社の承諾は必要ありません。
これは制度上はっきりしていることです。それでも、いざ自分のことになると、すんなりとは受け止められませんでした。
「休ませてもらったのに、結局辞めるなんて」
「これって、ずるいんじゃないか」
「逃げていると思われないだろうか」
私の頭の中には、こういう言葉がぐるぐると回っていました。
この後ろめたさについて、私は以前から考えてきたことがあります。「環境を変えるのは逃げではないか」という問いは、実はちょっとおかしいと思っているのです。
なぜなら「逃げかどうか」は、行動そのものの中身ではなく、それを見る人の評価を含んだ言葉だからです。同じ「退職」でも、称賛されることもあれば、逃げたと言われることもある。つまりそれは、行動の話ではなく、周囲がどう評価するか、自分がどう意味付けするかの話なのだと思います。
だから私は、「逃げかどうか」という問いの立て方を、いったん脇に置くことにしました。代わりに置いたのは、こういう問いです。
「この選択は、自分にとって合理的かどうか」
消耗し続ける場所に居続けることと、いったん離れて立て直すこと。どちらが自分にとって理にかなっているか。そう考えるようにしてから、少しだけ判断がしやすくなりました。
私の場合は、人事からのメールがきっかけだった
退職を「自分から切り出した」と書きたいところですが、正直に書くと、私の場合は少し違いました。
休職して数か月が経った頃、人事の担当者から一通のメールが届きました。今後の見通し、つまり復職を目指すのか、それとも別の道を考えているのか、意向を確認する内容でした。
そのメールを読んだとき、責められているような気持ちには、不思議となりませんでした。むしろ、自分の中でずっと先延ばしにしていた問いを、外側から差し出された感覚に近かったです。
「復職か、退職か」を、私はずっと一番冷静に考えられないときに、考えようとしていました。だから答えが出ないまま、時間だけが過ぎていた。そこに人事からの確認が来たことで、ようやく向き合わざるを得なくなったのです。
そして、メールでのやり取りだったことに、私はかなり助けられました。
もしこれが「出社して、対面で意向を伝えてください」だったら、私はまた何週間も先延ばしにしていたと思います。体調が万全でない中で、相手の顔を見ながら退職を切り出すのは、想像しただけで気が重い。でもメールなら、自分のペースで、何度も書き直しながら、言葉を選べました。
体調が思わしくないときに、自分に合った手段で意思を伝えられること。これは思っている以上に大きな支えになります。
復職せず退職を決めるまでに、私が考えたこと
意向を聞かれてすぐ、退職を即決したわけではありません。決めるまでに、いくつか考えたことがあります。
「もう少し頑張れば」を、いったん疑ってみた
メンタルがしんどくなったとき、多くの人が最初にすることは、もっと頑張ることだと思います。私もそうでした。もう少し休めば戻れる、もう少し時間をかければ復職できる、と。
でも、この「もう少し」が積み重なっていく時間が、実は一番リスクが高いのではないかと、今は思っています。
消耗した状態が続くと、判断力そのものが落ちていきます。簡単なことが決められなくなる。思考が広がらなくなる。そしてこの状態が深くなると、「離れる」という選択肢すら、思いつけなくなるのです。
出口が見えなくなるのは、出口がないからではなく、見える余裕がなくなっているから。私はそう感じています。だから、「もう少し頑張れば復職できるはず」という自分の言葉を、一度立ち止まって疑ってみました。
一人で決めないようにした
もう一つ気をつけたのは、重大な決断を自分一人でしないことです。
精神的に不調なときに退職のような大きな決断をすると、後で激しく後悔したり、自分を責めたりしやすいと言われています。これは私も実感としてわかります。
だから私は、主治医に相談し、家族にも話しました。いろいろな立場からの意見を聞いたうえで、最終的に自分で決める。その順番を踏むことで、「勢いで辞めた」という感覚を残さずに済みました。
環境を変えた後のことを、少しだけ想像してみた
退職を迷っていた頃の私は、「ここを降りたら、もっとひどいことになる」と思い込んでいました。次が見つからないかもしれない、もっと苦しくなるかもしれない、と。
でも、実際に環境を変えてみたら、想像していたような地獄は来ませんでした。それどころか、以前は当たり前だと思っていた消耗が、新しい場所にはなかった。
自分が削られていたのは、自分が弱かったからではなく、その環境と自分の相性のズレから来ていたのだと、体感として理解できたのは、環境が変わってからのことでした。頭で「自分のせいじゃない」とわかるのと、体で納得できるのは、別のタイミングで訪れるのだと思います。
休職中に退職を伝えるときの、現実的な進め方
ここからは、私の経験も交えながら、休職中に退職を伝える際の現実的な進め方を整理します。あくまで一般的な流れと、私がどうしたかの話なので、詳細はご自身の会社の就業規則や窓口で確認してください。
伝える相手と順番
退職の意思を最初に伝えるのは、直属の上司になることが多いです。その後、人事や総務へ連絡するのが一般的な順番とされています。
ただ、休職中は出社していないため、上司とすぐに連絡が取れないこともあります。その場合は人事に直接連絡しても問題ないとされていますし、休職中の連絡窓口が指定されているなら、そこに相談するのが適切です。私の場合は、人事から連絡が来たので、そのまま人事とやり取りを進めました。
伝える手段は、体調に合わせて選んでいい
退職の意思は対面で伝えるのがマナー、とよく言われます。ですが、体調が思わしくない休職中に、その原則を無理に守る必要はないと、私は思っています。
電話、メール、郵送など、自分の体調に合った方法を選ぶことができます。特にメールは記録が残るため、精神的な負担が大きいときには向いている手段です。私自身、メールでやり取りできたことに助けられました。
引き継ぎは、配慮を求めていい
退職の意思を伝えた後は、休職中であっても最低限の引き継ぎが必要になることがあります。ただ、体調が優れない場合は、書面での引き継ぎなど、無理のない方法への配慮を求めてかまいません。
「使える例文」に頼りすぎないこと
休職中の退職について調べると、そのまま使えるメール例文や電話のトーク例がたくさん出てきます。便利ですし、土台として参考にするのは良いと思います。
ただ、一つだけ。例文の多くは「感謝→お詫び→前向きな理由」というきれいな型になっています。それをなぞること自体は悪くないのですが、自分の言葉が一つも入っていないと、後から読み返したときに、なんだか他人事のように感じてしまうことがあります。
私は、感謝の言葉は本心だったので素直に書きました。でも理由については、無理に前向きに飾らず、「体調の回復が思うように進まず、復職が難しいと判断しました」と、事実を淡々と書きました。飾らなかったことで、かえって自分の中で区切りがついた気がしています。
退職後のお金と手続きの不安について
休職からそのまま退職する場合、気になるのが退職後のお金や手続きだと思います。
たとえば、傷病手当金は一定の条件を満たせば退職後も継続して受け取れる場合があります。私自身、退職をまたいで継続して受給しました。また、休職中は会社経由で支払っていた社会保険料や住民税が、退職後は自分で切り替える必要が出てきます。失業保険についても、休職や退職の理由によって扱いが変わってきます。
このあたりは制度が細かく、人によって条件も変わるため、この記事では深掘りしません。それぞれ別の記事で整理しているので、必要な方はそちらも読んでみてください。
お金の見通しが立たないままだと、退職の判断そのものが余計に重くなります。私の場合も、「辞めたら生活はどうなるのか」が一番の不安でした。先にお金の見通しを少しでも持っておくことは、判断を落ち着いて行うための支えになると思います。
最後に
休職から復職できずに退職を選ぶことを、失敗のように感じてしまう方は多いと思います。私もそうでした。
でも今振り返ると、あれは失敗ではなく、自分の状態を見たうえでの一つの判断だったと思っています。消耗し続ける場所に踏みとどまることだけが、強さではない。むしろ、削られながら続けることは、強さというより、選択肢が見えなくなっている状態であることの方が多いのではないかと感じています。
復職するか、退職するか。その答えは、人それぞれの状況によって違います。誰かに「こうすべき」と言われて決めることでもありません。
ただ、もし今あなたが「もう少し頑張れば」のループの中にいるなら、一度だけ問いかけてみてほしいことがあります。
この場所に居続けることで、自分は少しずつ回復しているか。それとも、じわじわと削られているか。
その答えが、次の判断の出発点になるはずです。
※本記事は私個人の体験と考えに基づくものです。休職・退職・傷病手当金・失業保険などの制度の適用条件は個別の状況により異なります。正確な情報は、健康保険組合・ハローワーク・自治体・医療機関・専門家など公式の窓口でご確認ください。



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